1vs1におけるクオリティは、フライブルクのオフェンスレベルを更に1ランク高めるもの
堂安の説得にあたるべく彼らが、オランダ・アイントホーフェンへと向かう際、そこにはハルテンバッハSDとヨッヘン・ザイアー競技部門取締役と共に、なんとクリスチャン・シュトライヒ監督の姿があったのだ。実はこの時はまだチャンピオンズリーグ出場権をかけたブンデスリーガ最終節の前のことであり、本来ならば決して「試合前に動くようなタイプの指揮官では決して無い」シュトライヒ氏だけに驚くべき判断である。「ただそれででも我々はこの時、とにかく共にいくしかないと思ったんだ」その言葉からも、いかにフライブルクが堂安獲得を重視していたかが感じられることだろう。
フライブルクで20年に渡りともに仕事をしてきた三人は、ハルテンバッハ氏が運転する車で、1時間半かけてアイントホーフェンへ。その道中では「音楽を聴きながら、少し話をしていたね。ただ特に誰が何を話すかとか、そういう作戦を事前に練っていたということではないよ」とハルテンバッハSD。「そういったことは会話の中で心から滲み出てくるもの。そういった監督であるのは皆さんもご存知のこととは思うが」と言葉を続けている。
アイントホーフェンでは堂安は代理人、そして2人の信頼を置く人物と共に交渉の席についた。「非常に良い話し合いだった。そこでは私たちはサッカー以外のことについても話をしていたよ。それに律は私たちが昨年にも非常に関心をもっていたことを知っていたしね」とハルテンバッハSD。「それから帰途についたのだが、我々は良い感覚を得ることができていたよ。ただ彼にどれほど我々が欲しているのか、それを伝えきれたかという疑問はあったがね」
つまりはフライブルク首脳陣は、堂安に対して「良いことばかりを並び立てるわけではない。むしろフライブルクの天候が雨である時、その時のことをしっかりと伝えていく。もしも物事がうまくいかなかった場合、どのようなことが起こりうるのか。想定できることを可能な限り挙げておけるようにするんだよ」と明かす。ただ最終的にその言葉を受けた堂安からは、入団の際にフライブルクというクラブに対する高評価が決め手であることが明かされ、そして加入からこの半年、首脳陣が語った”雨”は今のところはまだ訪れずにすんでいる。
数字だけを見れば22試合で4得点4アシストと伸び代はある、だがそれでも172cmのスピードスターは右ウィングにおいて欠かすことのできない存在で、フライブルクがみせる危険な攻撃のほぼ全てに関与。その1vs1におけるクオリティは、フライブルクのオフェンスレベルを更に1ランク高めるものだ。更に現在参加中のワールドカップでは、ドイツとスペインを相手に貴重な2得点を途中出場からマーク。大活躍を演じるなど、いまやフライブルクからみれば800万ユーロという移籍金は激安価格にもみえる。敢えて3人で車に乗り込み「気持ちに訴えた」、その判断の正しさの1つの証明であるといえるだろう。