「敗因はスター選手の不在」欧州メディアの権威・レキップ記者が語る日本代表「印象深かったのは吉田と遠藤」 | footcalcio

「敗因はスター選手の不在」欧州メディアの権威・レキップ記者が語る日本代表「印象深かったのは吉田と遠藤」

ワールドカップ

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レキップ紙はフランスで唯一の総合スポーツ紙であるだけでなく、ヨーロッパでももっとも権威のあるスポーツメディアのひとつである。ツールドフランスとパリ・ダカールラリー(現ダカールラリー)を主催し、欧州チャンピオンズカップ(現UEFAチャンピオンズリーグ)もレキップ紙の発案と主導(第1回大会の2回戦まで大会開催に消極的だったUEFAではなくレキップ社が大会を運営)で始まった。

カタールワールドカップにも、レキップ紙は21人の記者と5人のフォトグラファー、レキップTVの4人のレポーターを送り込んでいる。APなどの通信社を除き、ひとつのメディア・媒体としては最多の取材体制だろう。フランス代表はもちろん、他の優勝候補国にも複数の記者を担当につけている。

日本代表はそこまでの扱いではないが、それでも担当記者はついた。大会を通して日本代表を見続けたフランク・ルドルズは、初めて本格的に接した日本サッカーに何を感じたのか。クロアチア戦の翌日、ドーハからパリに戻る前夜に話を聞いた。

https://news.yahoo.co.jp/articles/ce142817048f0055f580154c245bc66357e5794c

レキップ紙のルドルズ記者は吉田のリーダーシップを高く評価した

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―日本のW杯での戦いぶりをどう見ましたか?

ルドルズ ちょっとパラドクサル(逆説的)ではあったが、ふたつの大国を破ってグループを突破することができた。ドイツとスペインに勝ったのは大変なことで、日本はこのW杯で成功を収めたといえる。結果を得たのは貴重なことだ。同時にコスタリカに敗れたのは逆の意味で驚きだった。

ベスト16はW杯における日本の定位置になりつつある。ベスト16の壁は今回も突破できず、さらなる一歩を踏み出すことはできなかったが、PK戦にまで至ったのだからあと少しであるのは間違いない。PK戦も2010年に続き2度目だし、2002年はトルコに0対1、4年前はベルギーにやはり1点差で劇的な敗戦を喫しており、その点では今回も少し不満が残る。

クロアチア戦は本当に素晴らしい試合で、日本は内容でクロアチアを少し上回っていた。安定したパフォーマンスを維持し続けて、最後は攻めきれずに多少守備的になったきらいもあったが、そう大したことではない。ベスト8へと至れる力を持ち、相応しい戦いをしたのに到達できなかったのはとても残念だ。選手や監督は悔しさでいっぱいだろう。これが勝負とはいえフラストレーションが残ったのは間違いない。

―クロアチア戦の敗因は何だと思っていますか。疲労により日本のフィジカルが落ちて、後半途中からパフォーマンスを低下させたのが原因でしょうか。

ルドルズ フィジカルについてはよくわからないが、日本が劣っていたとは思わない。日本は試合の最後も悪くはなかったし、しっかりと終えることができた。クロアチアよりも積極的に動いていた。それほど多くの得点機を作ったわけではないが、相手もそこは同じだった。そしてPK戦では消極的なキックでチャンスを逃した。

スペイン戦がそうだったように3バックは守備的なシステムではあるが、日本は積極的に攻撃を仕掛けた。コレクティブなプレーでクロアチアを上回り、延長に入っても得点機を作った。そのうちの一つはゴールに結びついていてもおかしくはなかったが、日本の不安はどちらかといえば攻撃にあった。

日本は得点能力に欠けた。前田(大然)は得点を決めたうえに、攻撃に積極的に関与しようとしたが効果的ではなかった。代わって入った浅野(拓磨)もトップフォームではなかった。鎌田(大地)には少し失望した。技術的に彼はもっと様々なことができるハズだし、持てる力のすべてを発揮したわけではなかった。とりわけセットプレーではもの足りなさが残った。堂安(律)もそうで、昨日は先発出場で彼にとっては良かったが、日本の攻撃という点ではさほどでもなかった。ドイツとスペイン相手に2得点を決めてはいるが、このレベルの試合のプレーとしてはもの足りなかった。攻撃に関して、日本は能力的にクロアチアに少し劣っているのだろう。以上が私の分析だ。

―それでは日本で最もよかった選手は誰でしょうか。伊東(純也)でしょうか。

ルドルズ それはクロアチア戦に関してか、それともW杯を通してということか。

―その両方です。

ルドルズ たしかに伊東は良かったが、昨日の試合で唯一彼を批判すべき点があるとすれば、それはイバン・ペリシッチの同点ゴールの際にマークを怠ったことだ。たしかに彼は本職のディフェンダーではないし、右アウトサイドからの攻撃が期待されて守備では多くを望まれてはいないが、クロスに対して彼は何も対処しなかった。大柄なペリシッチはヘディングが得意で、高くジャンプしたので伊東は驚いたのだろう。自分の守備エリアでの出来事だが対応ができなかった。それ以外では、彼は自分の仕事をよく果たしていた。

日本の選手をよく知るわけではないが、私が印象深かったのはキャプテンの吉田(麻也)だ。昨日も細かいミスは犯してはいたが、全体としてはよくやっていた。チームのパトロン(盟主)であり優れたディフェンダーだ。彼のリーダーシップがチームに落ち着きをもたらしている。大会を通してのパフォーマンスは素晴らしく、とても好感が持てた。

遠藤(航)も悪くなかった。ボランチとしてクロアチア戦では素晴らしいパフォーマンスを発揮した。それまでの試合でも能力の高さを見せたが、クロアチア戦では延長に入るまでの彼は最高だった。ボール奪取の技術に秀でているだけでなく、ボールを保持してのテクニックも素晴らしく、常に前の味方を探して攻撃を展開しようとする。後半に放ったシュートも素晴らしかった。

この大会で私の心に残った日本の選手は彼らふたりだった。

―PK戦ですが、日本はナイーブさを露呈したと思いますか。

ルドルズ そうかも知れない。こうした大会でPK戦の機会はそうあるものではない。ただ日本の選手のほとんどが今はヨーロッパでプレーしている。つまり経験を積んでいるわけで、そんな選手たちがPK戦で経験不足を露呈するのはパラドクサルだ。

酒井(宏樹)や長友(佑都)も今は日本に戻ったが、ヨーロッパのビッグクラブでキャリアを築いた選手たちだ。だから経験不足によるものなのかどうか……。もしかしたら若い世代はまだ十分な経験を積んでいないのかも知れないが、違いは経験の差だったのかどうか、私にはよくわからない。たしかに蹴り方は悪かったが、PK戦はロシアンルーレットでもあり運も大きく作用する。何が勝負を決めたのかよくわからない。

今さっきモロッコがPK戦の末にスペインを下したが、経験ではスペインがモロッコを上回っている。PK戦は特殊な状況だ。日本には多少はナイーブさもあったかもしれない。

それよりもスター選手がいなかったこと、違いを作り出すことのできる攻撃面でのリーダーを欠いていたことが、日本の敗因であるように私には思える。世界のトップチームにはいずれもチームの顔となるスターがいる。ポルトガルならクリスティアーノ・ロナウド、アルゼンチンはリオネル・メッシという具合だ。どこにもひとりふたりそうした規格外の選手がいる。

しかし日本にはそうしたスター選手、違いを作り出せる選手がいなかった。そのことの方が経験よりも大きかったと私は思う。経験の点では日本の選手もヨーロッパでプレーし、ヨーロッパカップ(CLとEL)や厳しいリーグ戦を戦っている。何人かの選手はW杯の経験がないかも知れないが、普通に考えれば日本の選手が経験不足だとは思えない。

―それでは森保一監督の戦術・戦略とコーチングはどう評価しますか。

ルドルズ 私を含め誰もが驚いたのは、コスタリカ戦で彼が行ったターンオーバーだ。勝てばほとんど突破が決まる試合で、森保は大胆なターンオーバーを敢行した。彼の頭の中ではそれでも大丈夫という確信があったのだろう。実際に最終戦でスペインに勝ったのだから。

それ以外では、彼はさまざまなコーチングを実践した。試合途中でシステムを変更し、戦い方を変えた。同じポジションでの変更も多く、交代出場の選手たちがゴールを決めた。私はこのチームを詳しくは知らないが、彼のコーチングが的確だったのは間違いない。世界的に見ても、森保は有能な指導者であると言える。

例えば南野(拓実)は日本ではスターかも知れないが、フランスではほとんどプレーの機会を得ていない。南野に対する森保の判断は的確で、彼はチームを正しい方向へと導いた。森保の他にどんな人材が日本にいるのかわからないが、批判をするとしたら勝利のチャンスを自ら手放した第2戦についてだけで、彼が選手たちとともに成し遂げたことは高く評価している。

―今後に向けて日本は正しい道を歩んでいると言えますか。

ルドルズ たぶんそうだろう。長友や川島(永嗣)など何人かの選手は大会後に代表を引退するだろうが、残る選手たちはアジアカップでも真価を発揮するハズだ。彼らは次のW杯もプレーするだろう。どんな世代が下に続くのか私にはわからないが、優れた選手、新星と呼べる選手が何人か出てくれば未来は明るい。

核となる部分はしっかり残っている。リザーブにどんな選手がいるのかわからないが、このチームのまま先に進むべきだ。経験を積みながら進歩を続ければ、ベスト8に到達する日もそう遠くはない。

PK戦でクロアチアを破り準々決勝に進出していたら、歴史的な偉業ではあったがそれは果たされなかった。そうなっていればまた別の話だが、今回成し遂げたことも十分に評価に値する。監督がこれからも続けるのかどうかわからないが、契約はまだ残っているのか?

―この大会で終わりですが、協会がさらに2年のオファーを出したと報じられています(後に誤報と判明)。

ルドルズ つまり森保が続けられるわけで、次の4年を考えたときに継続性を維持するのは悪くない。日本の代表監督がそこまで長い期間務めるのは随分久しいのではないか。チームにとってもいいことで、彼は選手をよく知り把握している。さらに進歩をもたらすことができるし、とてもポジティブなことだ。

―よくわかりました。メルシー、フランク。

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2026年W杯の開催地は米国のロサンゼルス、ニューヨーク、ダラスなど11都市、カナダのモントリオールなど3都市、メキシコ・メキシコシティなど3都市。北米大陸で開催する。
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