「差を埋めるにはまだ時間がかかる」トルシエが語る日本代表ベスト16敗退の理由と次世代の課題「足りないのは経験とメンタルだ」

ワールドカップ

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フィリップ・トルシエに電話をしたのは、日本対クロアチア戦終了後、森保一、ズラトコ・ダリッチ両監督の会見を終えた直後だった。ドイツ、スペインを下してグループリーグを1位で突破した日本は、4年前のロシアW杯以上に目標であるベスト8に肉薄した。PK戦の末に敗れたクロアチア戦をトルシエはどう見たのか。そして大会を通しての日本を彼はどう評価し、今後に向けてどのようなアドバイスを贈るのか……。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f489f2d16a05a622dcbcff2ec37a79f7e08e594d

勝敗を分けた経験の差

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―試合(クロアチア戦)をどう見ましたか?

トルシエ 日本は準々決勝にかぎりなく近づいた。もちろん残念な部分はあるし不満もある。勝負はPK戦で決まったから結果はとても残念だ。しかし試合内容で評価すれば、クロアチア戦も素晴らしい試合を日本は実現した。経験豊かで偉大な選手たちを揃えたチームに対して、日本は震えることなく対等にプレーした。クロアチアにとってはとても危険な存在だった。日本は胸を張ってピッチを去ることができる。

―その通りではありますが……。

トルシエ 残念なのは経験の差が出た敗戦であったことだ。PK戦はメンタルの戦いだ。頭脳の勝負でもある。日本はそこで精神的に緩んでしまった。そこのレベルを上げていかないと壁は突破できない。日本のW杯は素晴らしかったが、まだやらねばならないことはある。

クロアチアは強力なはずの中盤が疲弊していた。日本は組織が素晴らしく、ボール保持率ではクロアチアが上回ったが、うまくボールを回して攻撃を形作った。感じたのは日本の成熟だ。チームには熱気が充満し、ボールを前に運ぼうとする意志も強かった。

この大会で日本代表は日本の人々を覚醒させた。ドイツとスペインに対する見事な勝利は日本国民の心を鼓舞した。PK戦には小さな不満があるが、日本はこのW杯で大きな成長を遂げた。

―森保監督のコーチングについてはどう思っていますか。堂安(律)を先発出場させたことや選手交代に関してですが。

トルシエ 試合をうまくコントロールしていたと思う。チームはバランスが取れていて、選手は監督の期待によく応えた。たしかに攻撃は右サイドに限られたが、伊東(純也)は本当に素晴らしかった。この試合の彼の出来は最高で、W杯を通してもそうだった。フィジカル面や技術面、動きの質でも世界のトップクラスであることを、彼はこのW杯で見せつけた。仕事に関しては驚くばかりで、知性に溢れるクロスを数多くあげた。

チームの構築はほぼ完ぺきで、攻守によく機能した。森保のコーチングもバランスが取れていた。後半に三笘(薫)を投入して左サイドを強化し、右サイドには酒井(宏樹)を入れて伊東のポジションを上げた。

唯一残念だったのが南野(拓実)だ。リーグアンでのパフォーマンス同様に、彼には大きな失望を感じた。PKの1番手が彼だったのも残念な出来事だった。最初のキッカーは伊東のような選手が適切だった。誰が順番を決めたのか私にはわからないが南野を選んだのは……、彼は試合に入りきれていなかった。このW杯で彼は最後まで輝かず、満足できる試合はなかった。モナコでの低評価がW杯でも繰り返された。

―PKの順番は監督が決めたのではなく、選手が自発的に立候補したそうです。

トルシエ PK戦に南野を選んだのはミスとは言えない。南野も得点能力の高い選手ではあるが、1番手を託すには荷が勝ち過ぎた。伊東か遠藤(航)の方が相応しかっただろう。PK戦はロシアンルーレットだ。

繰り返すが日本はベスト8に値した。クロアチア以上の存在感を示した。クロアチアが疲弊し、得点機も作り出せなかったのに対し、日本はダイナミックなリズムで躍動し、日本サッカーの素晴らしいイメージを世界に与えた。

―とはいえクロアチアのフィジカルの強さに体力を削られて、後半途中から延長にかけては疲労が顕著になり攻撃を作れなくなりました。

トルシエ そうだが日本も失点のリスクを冒したくはなかったから、試合終盤から守備のブロックを下げて守りを固めた。つまり日本は、同点のまま試合を終えることを受け入れた。得点よりも、失点して試合を失うのを避けることを選んだ。

クロアチアは体躯も大きく身体能力の点で危険だった。そして恐らく日本には、2点目をあげるための力が残ってはいなかった。それもあって引き分けのまま試合を終えることを受け入れた。

だがそれは批判できない。日本に経験が足りないのは明らかだった。日本はアジアのチームであり、通常はアジア勢との対戦ばかりだ。オマーンやUAE、ベトナムといったチームで、W杯はそれらのチームとは別の次元だ。残念ながら世界と戦えるのは4年に1度だけで、経験のレベルで違いが出るのは仕方がない。それがアジアやアフリカのチームの現状で、日本も弱点を克服する機会がなかなか訪れない。4年に1度では限界がある。

欧州の国々は、毎年このレベルで戦っている。EUROはアジアカップよりもレベルが高い。小さなディテールの違いを学ぶために、日本は対価を支払わねばならなかった。日本が成熟していくために足りないのは、高いレベルの国際試合の数だ。

―しかし今大会では、欧州と南米以外から6カ国がベスト16に進みました。ベスト8は欧州と南米が独占するかも知れませんが(現実にはモロッコがPK戦の末スペインを破り、欧州勢の一角を崩した)、大きな進歩ではありませんか?

トルシエ その通りで、テクニカルプログラムが進化して、監督は容易に知識を得られるようになった。VARの導入により判定が精度を増し、選手は安易な反則やプレーを損なう行為を避けるようになった。VARはゴールの判定をより正確に行い、その結果として試合がより拮抗するようになった。

アフリカやアジアの選手も、今はほとんどがヨーロッパでプレーしている。チームは着実に進化した。しかし残念ながらまだ小さなディテールが……脚は怪我をすれば治療で修復できるが頭脳の差異は埋められない。今の日本に足りないのはその頭脳――すなわちメンタルだ。PK戦で欠けていたのはメンタル面の強さだった。クロアチアの出来は決して良くはなく、日本はプレーでクロアチアを上回ったが準々決勝に進んだのはクロアチアだった。ディテールの違いで日本は結果を得られなかった。その差を埋めるにはまだ時間がかかる。

―それでは日本は正しい道を歩んでいるといえますか? W杯後も森保監督はチームを率い続けるべきだと思いますか?

トルシエ 途中に五輪を挟みながらグループを形成してW杯の準備をするのはひとつのサイクルだ。そのサイクルが今、終わったと私は感じているが、それは森保への評価ではない。

彼は優れた監督で、あらゆる課題に応える術を持っている。常に落ち着いて冷静さを失わず、チームは素晴らしいプレーを実践し選手たちは持てる能力を余すところなく発揮した。感じたのはグループの統一感だ。コーチングでは状況に対応した的確な判断を常に下した。森保と日本代表のW杯はとても実りが多かった。彼は与えられた時間の中で素晴らしい仕事をおこなった。豊かな経験を積み、より優れた監督となって代表を去ることができる。

ただそうした森保の評価とは別に、次のW杯を準備するのは別の段階であり、別の熱意が必要だ。新たなスタートには新たな刺激も必要だ。それには新たなアイディアを持った新しい監督が、新しいスタッフとともに始める方がいいだろう。これはサイクルの問題だ。

ただ同時によく考えるべき問題でもあり……私はどうしても森保を替えるべきだと考えているわけではない。しかし2026年W杯の準備には新たなオプションが必要だし、新たな勢い、新たなメッセージが必要だ。別のベースから出発するのが望ましい。

―しかし継続性の点からも、新たな監督選びは簡単ではないと思います。日本人なのか外国人なのか現時点ではわかりませんが。

トルシエ そこは同意する。恐らくは多くのベテランが大会後に代表から離れる。川島(永嗣)や吉田(麻也)、酒井、長友(佑都)、柴崎(岳)……。もちろん彼らの後には可能性に溢れた世代がいる。伊東や冨安(健洋)、板倉(滉)……。彼らは森保に見出された世代だ。また23歳以下の世代――大岩(剛)が率いる五輪代表もそうだ。

継続性の点からは、日本人から監督を選ぶのであれば森保が適任だろう。外国人に的を絞るのは……もちろん可能だ。しかし日本人ならば森保が最適だと私は思う。彼は経験も得たし若い世代をよく知っている。このW杯で彼は本当に多くを学んだ。より力強くなってドーハを離れた。

―外国人を別にすれば、彼は日本人としては歴代最高の代表監督と言えますか?

トルシエ 彼が他の監督よりも優れているとは言えない。どの監督も……監督の能力とは結果を出す能力だ。それぞれの監督が自分の仕事をして結果を出した。岡田(武史)の仕事は素晴らしかったし西野(朗)も同じだ。もちろん森保の仕事も素晴らしい。それぞれの監督が多くの困難に直面しながら自らの仕事を成し遂げた。

W杯には抽選の運不運もあるし、けが人やプレーでの運不運、レフリーの判定もある。森保が見せたのは戦略面の素晴らしさで、スター選手が不在のチームをベスト16に導いた。岡田のチームにも西野のチームにもスターはいたが森保は違う。彼が見出したのは、スターがいない中での最高レベルのコレクティブな結合だった。ハーフタイムに選手を代えて、適切なコーチングで戦い方を変えた。それぞれの試合でチームは異なっていた。

私が指揮をした1998~2002年のチームと少し似ている。私のチームもコレクティブだったが、森保のチームにもコレクティブな統一感や戦略を感じた。もちろんその中には優れた個を持つ選手たちがいる。久保(建英)や南野は影が薄かったが、三笘や浅野(拓磨)、前田(大然)、伊東、遠藤、田中(碧)、鎌田(大地)、守田(英正)……。彼ら全員が高いレベルにあった。そしてコレクティブな一体感を保っていた。それを作りあげたのは森保の力で、彼が選手に言葉を与え、選手は森保とともに責任を引き受けた。責任を森保と分かち合った。

―ベスト8という目標を達成し、さらに先に進むためには、これからの4年間に何をしなければならないでしょうか?

トルシエ 繰り返すがすべては出揃っている。そしてメンタルの違いが勝負を分けた。メンタルであり経験の違いだ。日本の選手はこれからもヨーロッパに移籍し続けるべきで、そのためには優れた選手を育成し続けることが不可欠だ。日本協会もそこはよくわかっていて、育成プログラムには常に重きが置かれている。

この大会に参加した日本のすべての選手が、日本サッカーを世界に知らしめた。今日、日本の選手は、世界から大きな賞賛を受けている。三笘や伊東はチャンピオンズリーグでプレーができる力がある。遠藤や鎌田、田中、守田らもそうだ。

どれだけ多くの選手がヨーロッパのビッグクラブでプレーしているか。違いはそこから生まれている。伊東はバイエルンでプレーすべきだし三笘はチェルシーでプレーすべきだ。前田がセルティックでプレーするのは素晴らしいが、5~6人がビッグクラブでプレーするようになるべきだ。そこに鍵がある。そこに至ってはじめて日本はPK戦でクロアチアに勝てるようになるだろう。

だがそこに達していない今はまだ頭脳に問題がある。経験不足や精神的な弱さの問題がある。足りないのはそうしたディテールであって、コーチングの問題ではない。日本に欠けているはコーチングではない。レベルの問題だ。距離を埋めるためには選手たちがヨーロッパのビッグクラブでプレーする必要がある。

―それでは最後の質問です。アーセン・ベンゲルがテクニカルスタディグループのブリーフィングで、この大会は前半と後半で様相がガラリと変わる試合が多かったと述べています。日本もそうでした。彼はその理由を語りませんでしたがあなたはどう思いますか?

トルシエ そうなった理由は競技規則が変わり、交代が5人まで可能になったからだと私は思う。5人交代ができるので戦術を変更できる。それまでは3人だったから、交代は負傷者や疲労した選手に対して行われたが今は違う。疲れていない選手も交代できるようになり、別の戦術・戦略への変更が容易になった。

交代枠が5つあれば、疲労や負傷による枠を1つ2つ確保しながら戦術変更ができる。後半の開始から3人を投入することが可能で、監督はプランAとプランBのどちらを選ぶかを考えられる。何かをもたらしたいときに、選手交代を躊躇わなくなった。この大会では多くのチームがハーフタイムで選手を交代した。それが後半の試合の様相を変えるひとつの要因となっている。

―森保もそこをうまく利用して、選手交代で後半の戦術を変更しています。

トルシエ 交代が3人のままだったら、そんなことは不可能だ。

―わかりました。メルシー、フィリップ。しかしずっと咳をしていますね。

トルシエ ああ、喉が悪いからな。

―熱は下がりましたか?

トルシエ いや、熱はもともとなかった。

―それでは膝の手術はいつですか?

トルシエ 体調不良で延びたまま、まだ決まっていない。これから相談して決める。娘たちが君によろしくと言っている。

―私からもよろしく。チャオ。

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2026年W杯の開催地は米国のロサンゼルス、ニューヨーク、ダラスなど11都市、カナダのモントリオールなど3都市、メキシコ・メキシコシティなど3都市。北米大陸で開催する。

コメント

  1. 名無し より:

    トルシエYouTubeチャンネルでもコメントしてるから見てやってくれ
    再生数がまだ1000もいってないぞ

  2. 名無し より:

    これの話しをありがたがって聞くのかわからん

  3. 名無し より:

    正直今回の体たらくなクロアチアは勝てた試合だったし、初戦のドイツも内部分裂だったらしいし、千載一遇な運と選手の頑張りで今回ばかりはベスト8までは行けたと思う。
    だからこそ次の四年はまともな時間の使い方してほしい。田嶋にはこの気持ちわからないだろうけど。

  4. 名無し より:

    足りないのは黒人の血統だよ

  5. 名無し より:

    まああらゆる人が口々にするように「勝てた試合だったよね」
    でもクロアチアはクロアチアでそこで負けないから準優勝出来たんだろうね、PK戦も同様
    ただ日本の方が試合内容は良かった
    6-4か6.5-3.5ぐらいで日本の方が内容良かったと思う

  6. 名無し より:

    トルシエが現監督じゃなくてよかったと改めて思った。
    今回ほど裏舞台などで感動したのは初めてだし日本代表に興味がなかった俺までハマらしてくれた。

  7. 名無し より:

    足りないのは人種混合

  8. 名無し より:

    クロアチア戦は確かに勝てる可能性を残したまま敗れた試合だったとは思う。トルシエの内容は中々納得できる内容ではある。しかし、まるで誓う勘違いも有る。それは森保がチームをまとめたという部分。これはまるで違う。選手がまとめてくれたのだよ。森保がまとめたのは日本だから成功したのであって、これが他の国なら完全崩壊している。森保は日本人の持つ特殊性に助けられたってだけだよ。

  9. 名無し より:

    日本人監督なら三笘筆頭に黄金時代の川崎を率いた鬼木を見てみたいとも思う
    遠征増やして強豪と数多く試合するのと、ビッククラブ入りをもっと増やすのはすぐに解決できる問題ではないな

  10. 名無し より:

    クロアチアはPKのとき凄く落ち着いてるんだよね
    しょっちゅうやってるからもう慣れきってるんだろう
    しかもGKがやべえからなPK以外でもあのGK1人で何点止めたんだよってぐらい
    全盛期のノイアー並だわ

  11. 名無し より:

    クロアチアって黒人選手おらんのかな
    シロアチアにせいや
    アルゼンチンにもおらんな
    オランダに改名せいや
    オランダにはたくさんおるんよな
    オルンダにせいや

  12. 名無し より:

    Jもただ走り回っているだけってイニエスタとかに言われてたから、試合運びが上手く出来るようもっと意識して欲しいな。

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